恐らく、健は後夜祭、ここで俺たちが過ごそうとしていることに気付いたんだろう。
だから、図書室から見える、反対側の校舎の同じ階であんなことを…
健が何かを言っているのは分かる。
でも、声はまったく聞こえない。
そして、俺はイライラしていた。
理由は明白だ。
ひろが、健を拒まないからだ。
もし俺がひろにあんなことをすれば、間違いなく、柔道の技をくらう。
なのにひろは黙って健に抱きしめられてやがる。
抱きしめられていることによってひろの表情が分からないことが余計にイライラを募った。
どれくらい、2人はそうしていただろうか。
やっとひろと健は離れる。
そこで初めてひろの表情を確認できた。
「…なんで笑ってんだよ…」
せめて、いつもの冷たい、あの、無表情でいてほしかった。
そしたら俺は、このイライラをどうにか抑えることができたのに。
無性に腹が立って。
これが『嫉妬』だとそのとき初めて気づいた。
やっぱり俺、ひろがスキでたまらないんだ。
ひろがあんなふうに俺じゃない誰かに抱きしめられるなんて、
俺…耐えらんない。
いっその事、今から告白してやろうか。
そんなことを考えてフッと笑った。
自分で、分かっていたのだ。
告白なんて大それたこと、俺にできるはずがない、って。


