それからひろがいる間、ずーっと健は心ここにあらず、って感じで。
お客さんが呼んでる、って言うのに聞こえてないみたいだし、
目線はずっとひろに送られてるし。
健、思った以上に未練タラタラだな、おい。
「なあ、気にしすぎじゃねーの?」
「何が」
教室の隅に突っ立ている健に近づいて小声で話す。
「ひろのこと、気にしすぎ」
「うるせぇ。お前に関係ないだろ」
「そうだけどさ。
でも、お前がいくらひろを見たところで、アイツはお前のこと、見てくれねーよ」
そう言うと健は俺を睨む。
「分かってるよ、そんなこと。
でも俺…まだ、アイツのこと忘れられねーんだ」
「そんなに付き合ってるときのひろは、魅力的だったか?」
「付き合ってるときだけじゃねえ。
ずっと、千尋は魅力的だよ」
「キモイな、お前」
「はあ?!なんなんだよ、てめぇ!」
「いや、なんか健に似合わない言葉だったから、つい」
へへ、と薄笑いを浮かべる。
「でも俺は、お前がうらやましいよ」
「俺が?」
不思議そうな顔で健が俺を見る。
「だってお前、別れたけど1度付き合えたワケじゃん。
でも俺は未だに相手にもされてない」
あーあ、ホントに切ないよ、俺。