「あ、そうだ、ひろ」


帰ろうとエナメルを提げたところで思い切った質問をしようとひらめく。



「何?」


「キョンちゃんのこと…少しは、忘れられた?」


思ってもみなかった質問だったようで、ひろは戸惑った顔を見せた。

でもすぐにいつもの顔に戻る。


「少しは…ね」


「そう。それは良かった。

うーん…でも、その様子から察するにまだ、失恋の傷は癒えてない?」


「そう…かもね」


随分と素直なひろ。

正直、戸惑う。



「ひろはこんな言葉、知ってる?」


「何?」


「失恋の傷を癒すには次の恋が1番の良薬だ、って。」


別に俺に惚れろ、とは言わない。

いや、そりゃあ俺に惚れてくれるのが1番ではあるけど。


でも俺は何よりひろの笑顔が見たい。

最近は辛そうな顔しか見てないから。


だからひろには早く、元気になってほしい。



「…仕方ないから覚えといてあげる」


ひろはふっと笑ってそう言った。


夕日が眩しかった。

いや…ひろの笑顔が眩しかった。


やっぱり俺、ひろが…好きだ。



心の中でそう呟いて


「じゃ!」

と、手を挙げて図書室を出た。


そして俺は廊下を走る。

ドキドキとうるさい鼓動を誤魔化すために。