しばらくの間、誰も動こうとしなかった。

不穏な空気が漂う。


それも仕方がないだろう。


監督があんなことを言ったんだから。



「1年、先に帰れ」


部長が言う。



「え…でも、掃除が…」


「今日はいい。

今から2年と3年だけでミーティングするから」


「…分かりました」


急いで着替えを済まし、全員そろって部室をあとにした。



「…なんか、空気…ヤバイな」


純の呟きに全員が頷く。


「俺ら…勝っちゃったんだもんな」


「やめようぜ、そういうの考えるの。

っていうか俺ら、ライバルだぞ?


この中から3人、ベンチに入れるヤツが選ばれるんだから」


全員が無意識で立ち止まり、顔を見合わせた。



「おいおい、そういうこと言うなよ。

空気、悪くなんだろーが。

俺、野球好きだからさ、楽しくやりたんだよね。


ま、そういうことで俺は今から行くところあるんでサラバ!」


意味なく敬礼をした俺はみんなと別れて階段を駆け上がった。