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「部活頑張るねーおつかれさまー」

放課後の部活も終わって自転車置き場に行こうとしたら、

必要以上に整えた笑顔の堀が近付いてきた。

彼女は何もしていないのに、なぜか姿を見るだけでイラっとする。

…この不快感が世間では“生理的に無理”と呼ばれる類なのだろうか。


「ねえー、うちらも放課後みんなで遊ぼーよ」

てらてらした唇を動かして…中学生の化粧なんか俺からしたらくだらない。

…必死な媚びの象徴のようで無理だ。

何より、あの日姉ちゃんを嘲笑った堀なんか大嫌いだから――


過剰なくらい「無理、部活さぼるとかない」と、素っ気なく答えた。


校庭の木が柔らかく揺れて薄れた春の香りを運ぶ。もうすぐ春が終わり夏がやってくるのだろう。


「つまんないよ、だって今日は宮も相坂も久保も遠ちゃんはWデートしてるじゃん。市井はなんで?

それに市井ケータイないから私だけ淋しいよ!切ないじゃん」


頬を膨らませ上目使いで覗き込む堀。

それはきっと彼女なりに計算された“キメ顔”なんだろう。

……下まつ毛のマスカラ汚いのがよく見えるよ、なんて言えないが。


そもそも俺と堀はただのクラスメートなだけで、深い関わりなんてないのだから、

遊ばないからと咎められる筋合いはないし、堀と遊ぶ義務はゼロだ。


面倒臭いのを探られないように笑顔を造りつつ、さりげなく歩幅を広げた。