否定っぷりが真剣すぎて引いたのか、あるいは逆に興味がわいたのか、

相坂はさっきまでのニヤけ面をなくし、途端に怪訝な顔になる。


「お前モテるのになんで彼女作らねーの?」

「好きな奴いんのか?貴様もしや秘密主義か?」

久保も加算し一気に恋愛モードとなった会話に、内心舌打ちをする。


「独り身でいいんですー孤独を愛します」と、肩を竦め笑えば、

いつもは爆笑で終わるのだが、どういう訳か今日は状況が違うらしい。


「理想高い?」
「市井から恋バナ聞かねーもん、つまんねえ」

「デートしたくね?キスとかしたくね?」
「夏休みまでに彼女要るだろ?」


……。
ガールズトークが好きな女子のよう。しつこく聞いてくる二人に、どう伝えればいいのか分からない。


――言えるなら言いたい。
本当は言いたいこともある。
聞いて欲しいことがある。


けれど言ったらいけないこともある。


――だから甘い言葉を飲み込んで、「じゃあ市井雅は王子様を待ってるってことで」

と、笑い本音とは違う言葉を吐き出す。それが紳士だろう。


そんな俺に二人は何か言いたそうに目を向けるから、逃げるように慌てて視線を外した。

体育館から教室への渡り廊下に進む時の景色が好きだ。

見栄えの悪い中庭の花壇と、寂れた校舎の感じが“和む”から。



彼女がいらない訳でも理想が高い訳でもない。

簡単だ。
――好きな女がいる。
キスが出来るならとっくにしている。―――誰よりも愛している女が居るんだ。