「ふふ、市井は臭くないよ~??」
三人だけだった空間に沸いた新たな声に、辺りを見渡す。
救急車のサイレンに反応するガキのように。
すると久保が口角を上げ、「つまり俺らは臭う訳?」と喋り出し、
声の主に「なんだよ遠藤ー差別だろ」と相坂も加わり、
答えるように「ふふふ」と女の笑い声がする。
久保の視線を辿れば、謎の声“遠藤”が、体育館の床に沿った窓から顔を覗かせていた。
そして柵越しににこにことこちらに笑っている。
「傷ついたよー慰謝料よこせよ」
確かに相坂がそう言ったのに、「はい、慰謝料」と、
なぜか遠藤に柵の隙間から“慰謝料”を渡されたのは俺で…。
状況を掴む前に、遠藤は何か一言二言告げて去っていった。
ばかみたいなリボンのポニーテールが背中を泳ぐ。
そして俺の手の中にあるのは、
ピンク色のパッケージをした“フローラルの香り”の制汗スプレーだった。
……なにこれ、逆に嫌がらせか?



