「眠て…」

零した愚痴は朝日に溶ける。
四月になり新学期が始まって、ようやく平常時間割になった。


春休みの怠けた身体がようやく本調子、中学三年生となると受験受験とうるさく言われる。


通りすがりの女子高生二人組に「可愛いー」と野次られ、朝から不服に感じた。

くっきりした二重で垂れた真ん丸な黒い目。肌の色は白く女みたいだと言われる。

…可愛いよりはせめてカッコイイと言われたいなんて、外見だけではなく性格も女々しいのかもしれない、と悩む年頃だったりもする。

周りより背は高いくらい、体重は軽いのか?細身だけど背が高い点は、かろうじて男としての支えだ。



まだ通学時間ではないので空いている道路、――朝早くから自転車に跨る。

――部活の朝練があるからだ。


新しい草の香りが風に乗って、ああ春だなと実感する。(もう春を通り越しているけれど)

光の粒が溢れた朝の日差しに思わず目を細めた。



「雅ーみやび!!タオル!!タオル雅」

ペダルを踏み始めようとした時、かん高い声で雅と言う名前が背中に乗っかる。


「あ、忘れてた、ありがと」

振り向くと、ちょうど姉ちゃんがタオルを二枚、俺のスポーツバックに押し込むところだった。


爽やかな早朝にぴったりな、清潔な笑顔をした姉ちゃん。

太陽に透ける茶色い髪は毛先がさらさらと揺れる。

――忘れたんじゃない、わざと忘れたんだ。



「頑張ってね、いってらっしゃい」

優しい姉のとびきりの笑顔を見れば不思議と頑張れる。家族愛ってやつだろう。


――俺の好きな時間だ。