本当は琴さんに言いたかった。姉ちゃんを諦めてください、俺に譲ってください、どうして姉ちゃんを好きになるんですか。
そう言いたかった。縋って姉ちゃんを琴さんから奪い返したかった。
本当は父さんに言いたかった。姉ちゃんが欲しい、俺は嘘つきだ、どうしてあの時姉ちゃんを売ったんだ。
そう言いたかった。暴れて姉ちゃんを手に入れたかった。
本当は姉ちゃんに言いたかった。姉ちゃんが好きだ、俺を好きになってくれ、どうして琴さんを好きになるんだ。
そう言いたかった。泣いて姉ちゃんに俺を見てほしかった。
こんな俺は全然いい男じゃない。王子様なんかじゃない。
無力で、嫉妬して劣等感でいっぱいで。
でも一つだけ負けない。姉ちゃんを誰よりも愛していると言える。
でも口にすることはできない。
もし俺が姉ちゃんに愛を告げたなら、姉ちゃんは悲しんでしまうから―――
どうして上手くいかないのだろうか。
好きな感情なんて切り替えてしまえたら良いのに。
―――理想の世界に住んでいるのは結城琴。
それを羨むだけで、何も持っていない俺と言う生き物。



