『生涯、いや、死んでもお姉ちゃんを愛していきます』
―――お姉ちゃん。
好きな女はお姉ちゃん。
……。
琴さんはにっこりと笑って言った。それは姉ちゃんの好きな笑顔なんだろう。
幸せに満ち足りた結城の背中を見送った。
父さんの手が肩に置かれ、じんわりとしたぬくもりが生地越しに伝わる。
「雅は…いいのか?」と、眉を垂らして切なそうな顔をし言って、
玄関の鍵を閉めると、「お父さんは…忍には好きな奴と幸せになってほしい。
だけど、雅には好きな女と幸せになってほしい……欲張りか。
だけど…自分の子供には幸せになってほしいんだ…」
震えた声は卑怯だ。
我が儘を言えなくなるから。聞き分けの良い子でありたくなるから。
父さんは俺を自分の子供だと言う。それだけで俺は幸せじゃないか。
欲張りになったらだめだ。
我が儘を言ったらだめだ。
……父さんの子供ならきっとこう言うんだろう、“父さん、姉ちゃんは琴さんと幸せに生きてくんだろうね”と。
涙は必要ない。
笑顔しかいらない。
娘が結婚するなんて おめでたいことなのだから。
「父さん、姉ちゃんは琴さんと幸せに生きてくんだろうね」
―――それは、事実。



