「泣かせないのか?姉ちゃんを大事にする?」
「ああ、約束する。忍さんが困るくらいに幸せにしてみせる」
俺の目指してきた役を、結城が演じている。
俺はエキストラにさえなれない、舞台にさえあがれない。
客席で見ることもできない。
会場の外で音洩れを聞くだけ―――
――結城の為じゃない、姉ちゃんの為だ。
好きな女の為に身を引くことが大人だ。
姉ちゃんが、喜ぶんだよな?
だから…
「いい。わかった」
涙を拭い、結城を見つめた。
「雅」
ほら、姉ちゃんの嬉しそうな顔。
俺の一言で最高に幸せいっぱいな笑顔になる。
―――こんなの残酷だ。
そんな嬉しそうな顔をするなんて皮肉じゃないか。
美しくて…
誕生日パーティーを開いても、俺では不可能な綺麗な笑顔。
泣いている本当の意味さえ、分かってもらえない。
幸せにしたのは、結城の言葉。
――あなたは遼遠だ。
涙の変わりに笑ってみせた。



