「みやび…」
姉ちゃん、俺はあんたが好きだ。今すぐ拉致したいくらい好きだ。
誘拐したいよ、結城から奪いたい。身代金なんか要らない、姉ちゃんが居るなら良い。
下を向いたら涙が腿に落ちた。
「雅くん、椿ちゃん茜ちゃん実くん、お父さんお母さん…確かに、そうです」
結城が話し始めたけれど、俺はただ涙が滲んだ繊維を見ていた。
濃度が濃くなるのは、悲しみの深さ。
「忍さんを婚約者にした僕は、雅くんが言う通りだ。忍さんを無理やり奪いました。…最低な男です。あんな過ちをもう二度と犯しません。
僕は傷付けた分、忍さんを幸せにする義務がある、愛しています…好きなんです。
だから、結婚したいです」
真っ直ぐな瞳と、目が合った。
嘘つき。
“僕”と言って取り繕うなんて狡い。大人ぶって狡い。
見ないで欲しい。
姉ちゃんを見つめる権利がある瞳を俺に向けないで欲しい。
その瞳でどれだけ姉ちゃんを見つめたのだろうか。



