姉ちゃんは結城に泣きながら抱き付いて、結城は背をさすっていて。
――それはお似合いの夫婦で……
悔しかった。
悲しかった。
俺が姉ちゃんの涙を拭いたいのに、俺が姉ちゃんを抱き締めたいのに、
全部全部結城の役目なの――?
もし俺が結城なら―――何度願っただろう。
もし姉ちゃんと兄弟なんかじゃなかったら…―
仮定ばかりの“もしも”が。――魔法使いになれたならと。
もしもを夢見るから頑張れたのに。
忍、俺は忍が大好きだ、誰よりも愛している――…
ずっと、もう、ずっと好きで。
受験頑張って、いい大学行って、就職して、それで―――早く大人になりたくて。
王子様になりたくて。
あんたの隣に居る男みたいに、堂々と姉ちゃんを愛してみたくて――…
大好きなんだ。
ずっと大好きなんだ。
離れて行かないで…姉ちゃんの居場所は俺の隣じゃんか。
結城琴、家柄も育ちも良い大人。
頭も良くてお金持ち、安定した将来、背が高くてハンサムで、スーツが似合う大人。
―――正に王子様。
涙が溜まる、泣いたらダメだ。泣いたらダメだ。
王子様に涙は似合わないんだから。



