目の前にいる結城が、姉ちゃんと戯れる姿が脳裏に浮ぶから。
結城の骨ばった手が姉ちゃんの服を脱がして白い肌に触れて…
――そんなの嫌だ。
結城には気が無い行為に愛を感じる姉ちゃんなんか辛いだけだ。
結城が許せない。早く姉ちゃんが目を覚ませばいい。
更に口を開こうとしたら、姉ちゃんが「やめて、!!」と、大粒の涙を流し出した。
さっきは泣いても幸せそうだったのに、今は凄く辛そう表情で…
ああ、俺が泣かせたのか。
姉ちゃんを笑わせる為にあった口が、姉ちゃんを泣かせる為の音を作る。
それは俺の醜い気持ち。
――泣きたいのは俺の方だ。
だって…好きなんだ。好きなのに。
愛してるなんて、なんで別の男が好きな女に囁くんだよ。
それは俺の役目なんだから。
なんで?
市井雅という自分が大嫌いだ。
なぜ市井になっている?……それは母親が父さんと連絡をとったから、だろう?
息子には会わないのに、息子を捨てる手続きだけは立派に済ませたからだろう?
…次に名字を変えるなら、市井の婿養子になりたかったんだ。
姉ちゃんを愛せる大人になりたかったんだ。



