「ねえ雅、私って女捨ててるかな?」と、晩飯を一人で食っていたら、

兄弟を寝かしつけた姉ちゃんがそっと現われた。


蛍光灯がちかちかと光度を変えるから、食卓の影が薄くなったり濃くなったりする。



「ん?なに急に」

「バイト先の人にさ、髪の毛巻いたりしないのーって。ありえないって。

最近の子は着飾ってオシャレなのにって。ちょっと凹まない?

なんてね、素材がいいですからーって、ねえ?あはは」

少しおどけて冗談を言う姉ちゃんは、笑ってるのに泣いているみたいだ。


喉の奥がぎゅっと、締め付けられたみたいに息が苦しい。


けど――

「ふはは、そいつ何言ってんだろうな?姉ちゃんマジ絶世の美女じゃん。

そのうちTVの取材来てさ、んで、あの子は誰と電話殺到!ってやつだから」

―――茶化して笑った。

乙女心の読めない俺も分かる、彼女が傷ついているのだと。


姉ちゃんは笑顔が可愛いから。いや、笑ってなくても可愛いのだけれど…。

つらそうな顔は見たくなくて、つい視線を落とした。冷めきったポトフが皿の底まで透き通っている。


――どうせなら笑わせてやりたいだろう?


だから俺は笑いながら面白おかしく話を続けた。


「化粧って化けるって書くんだ。オバケと一緒の字。知ってた?ハハハ。

つーかさ、姉ちゃん髪だけは綺麗じゃん?髪は!

だから巻いたりいじったりしなくっても、髪だけがとりえなんだからさ?

髪くらい自然なままで良くね?」








………どうだ?


ゆっくりとお姫様の表情を伺うために目線を持ち上げた。