拳で頬を殴られ不意打ちだったので地面に倒れた。口ん中に回る甘い血は、いつか味わったことがある。

「辞めるなよ」「雅」
久保と相坂の真剣な声に対して何も思えない。

本来ならば厚い友情に胸を熱くし謝罪をし……けれど違う。

むしろもっと殴られたくて、俺はわざと挑発するように言っていた。

―――殴ってほしい、無力な俺を殴っていっそ消してくれたって構わない。


「辞めるし。バスケなんか嫌いなんだ。つまらない」


殴ってほしい、もっと。

だって…姉ちゃんはもっと苦しいはずなんだ。痛いはずなんだ。苦しいはずなんだ。


だから――――


「っ雅!!お前マジ腹立つ!!」「もういい、市井となんか絶交だ。知らね。いこうぜ久保」

せっかく怒らせたのに、子供たちは怒りを通り越し呆れて帰ってしまった。

殴ってほしかったのに殴ってくれなかった…


……バスケなんか、姉ちゃんが居ない今どうでもいい。する意味もない。

バスケは姉ちゃんが喜ぶ顔が見たくて始めただけだ。


だから、もうバスケなんかする必要ない。辞めたって全然構わない。何の影響もない。

口ん中、痛い。前は姉ちゃんが手当てしてくれたのに…

なのに今はもう居ない。



姉ちゃん、

俺バスケ辞めた。
姉ちゃんが、好きだ…


届かない想いは相手が居ないなら何もならない。

眠る度に明日にならなければ良い、昨日になってくれたら良いのに。

好きだ、好きだ。
本当に好きなのに。

どうか赤い血を見たくない…