…なあ姉ちゃん…姉ちゃんは結城忍になってしまうのか?…そんなのだめだ。
……どうして人間は高い塔を造りたがるんだろうか。
高いところから見下ろすより、俺は同じ目線で物を見たい。
…きっと二十年くらい経てば、“高い塔は傲慢さの象徴”になるだろう。
今の時代、なぜ高層マンションを造りたがるんだろうか。分からない。
―――俺は地に足を付け歩きたい。出来ることなら姉ちゃんと手を繋いで…
「お疲れ様です結城さん」
待ち焦がれた憎らしい名前。
目を凝らし見た。
颯爽と歩いてくる。
背が高いスラっとした体。
「犯罪者っ婚約破棄しろ」
そう言うつもりでここに来た。
けれど俺はばかみたいに突っ立っているだけだ。木の葉の隙間から、見ているだけだ。
結城琴は
―――美しかった。
厭味のない長い黒髪、力のある切れ長で二重の鋭い目、鼻筋の通った端正な顔は…他の誰よりも遥かに美しかった。
人を惹き付ける力のある男なんだと、一目見て分かった。
…スーツの似合う大人だった。



