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きちんと翌日は母親らしく朝食を作り、洗濯物を干し兄弟を送り出して…

ようやく静かになった家で、姉ちゃんが残した内職の道具をいじってみた。

こっそり作ってひっそり手伝っていたことを、きっと鈍い姉ちゃんは知らなかっただろう。

…知らなくて良いんだ、どうせ無駄になったのだから。


姉ちゃんに会いたい……
戻ってきてくれるなら俺はなんだってする。中学行かずに何を言われようが働く。

それで今度は姉ちゃんを楽にしてやるから…だから……




「雅、お前学校に行け」

―――父さんが帰ってきた。

行く訳がないと言えば、昨日はキレなかった癖に「学校に行け!!」と今になってキレる。

それは間違っている。キレるのは結城琴に対してだろう。


……やってられない。自転車に跨がり大嫌いな家から離れた。風を感じながら、頬が濡れるのは涙だと知る。


学校とは反対の結城の会社に向かった。
制服だから補導されるなら補導されたでそれでいい。もうどうでも良い。


会社の前で待つしかできないから待つ。今すぐ結城に話をしたい。


…ストーカーの気持ちが分かる気がした。
返事のない相手を待つ内に、…自分の気持ちを踏みにじる相手を待つ内に憎しみが育つ。

殺してやりたくなる。気が狂ったみたいに暴れたくなる。死んでくれと願うようになる。

姉ちゃんを返せと殴りかかりたい。

―――会社の前で、ただただ殺意を育てて待っていた。