「え…、ああ、父さん。お帰り」

「ああ」

期待とは違う人物に落胆するも、姉ちゃんに会わなかったかと尋ねた。

汗や機械の油で薄汚れた作業着は、もう何年も新調していない――


しかし息子の質問を無視し、父さんはゆっくりとお誕生日料理の飾られた茶の間に座った。




まだ誰も手を付けていないのに、父さんはナイフとフォークを迷いなく手に取りステーキを切る。

それは、お店屋さんからの姉ちゃんへのお祝いで――


「あっ、ダメだよ」という椿と茜の声がする。そう、妹たちだって分かっているのだ。

――美味しいご飯を“誰と食べるか”の意味を。







これを人は胸騒ぎと呼ぶのだろうか、嫌な予感がした。

ドクドクと心臓が騒ぎ暴れる。

大事にしていた物がなくなっていくような…――



「姉ちゃん、は?」

「ああ、帰ってこないよ」

それは掠れた声。
秋の寒空が似合う枯れ葉が擦れるような淋しい音。

人肌が恋しくなる音色…