「高校行ったら雅モテるんだろうな」
「モテる為に高校行くんじゃないから、モテなくていいし」
――頭の良い西高校に行くのは、姉ちゃんの為だから。
頭の良い高校行って、いい大学入って、いい会社で働いて、お金をいっぱい稼ぐんだ。
王子様になれるように―――そのステップが高校進学なだけで。
モテる必要はない、ただ一人のお姫様に愛されるなら幸せだ。
「なんで、自慢だよ?モテる弟なんて」
弟の部分を姉に変えて返したら、嬉しそうに笑ってくれた。
――何もしない内から諦めたりなんかしない。
こうして誰も居ない夜に姉ちゃんを独り占めできるのは、俺だけなんだ。
「頑張って、絶対頑張ってね?…私ずっと応援してるから」
「何?急に……」
「ううん、ちょっと。言っておきたかった、西校倍率高いでしょ」
なんだか卒業式のお別れのような言い回しに思え、少し不安になる。
が、明後日に迫る誕生日が楽しみすぎて、小さな変化を見逃していたんだ。
*
風呂から出ると姉ちゃんが台所の机に居た。内職のシールを貼る手は止まったままだ。
「姉ちゃん?」とためらいがちに声をかけると、「あ、もう寝る?」と、ぼんやりとした返事をされた。
十二時過ぎたからもう寝ようとする俺に続き、自分も寝ると言う。
“朝夜逆転だから生活リズムを直したいのだ”という発言も、
“明日は休みだから実や椿と遊ぶのだ”という意思表示も、――何も違和感がなかった。
だから、きっと俺の気のせいだ。
小さな箱にファスナーの金具をしまう、その手つきは繊細で美しい。



