「本当ありがとう、ちょっとは慣れたよ、役立ってる?」
「いやいやっこっちが助かるよ、俺ホールよりキッチンが好きだからさー。接客苦手なんだ」
店の裏に止めさせてもらっていた自転車の鍵を外す
一時間前にはまだ明るかった視界は、いつの間にか暗く染まっていて、
その当たり前な変化さえ達成感を覚えるきっかけとなる。
「明日もよろしくな」
「ああ。じゃあまたなー、気をつけて帰れよ」
肘からではなく肩から動かし大きく手を振った。
久保の後ろに見える店の明かりは、サラリーマンを誘うように温かみがある。
疲れた足でペダルを漕ぎながら、一時間で五百円、二十日働けば一ヶ月で一万円になる……そんな計算をする。
一万だぞ?一万……大金だよ、ありえない。一ヵ月で一万円だぜ、凄いよな。
へそくりをする人の気持ちが分かる、お金が増えるって幸せなんだ。
一ヶ月後の給料日。
俺は一万円を手にするんだ。
――そうしたら“買うもの”は決まっている。



