言われるままに口を広げた。
姉ちゃんは片手を床について、もう片方は俺の唇を引っ張って診てくれる。
四つん這いみたいな格好に、その距離感に――“弟”の心臓はひどく暴れる。
顔なんか真っ赤だろう、赤鬼。
「暗くて見えない」と、顎を細い指ですくうように持ち上げられた。
…いよいよキスの前触れみたいで照れる。
だってお互いが吐いた息がかかるような近さなんだ。
触れたくてしょうがない姉ちゃんに、触れられているなんて……
ドキドキしすぎておかしくなりそうだ。恋心が爆発してしまいそう。
ふすまの奥から、「ちくわ食べた」「食べてないよ」と、兄弟のキャッキャした笑い声がする。
大好きな姉ちゃんの細い指先が口の中に入り、傷口を突く。
食べ物以外は歯ブラシしか入れないから――
子供が歯医者の治療中にしがちなように、無意識に侵入物に舌を絡めていた。
そう、姉ちゃんの指で――意識なく生理現状だったけど、直ぐに離したけど――恥ずかしくてたまらない。
じゃれあう恋人みたいだと甘いことを思ったけれど、「わっ、雅、ばか?赤ちゃんみたい」と姉ちゃんが笑うから、
やっぱり湿度は変わらなかった。恥じらったり取り乱したりは、…してくれない。



