*
「これ二番でこっちは奥のボックスF」「はい」
交通量が多い大通りに面しているこじんまりとした、昔ながらの定食屋のような飲み屋。
不況な昨今、低価格で庶民的な味の久保の両親の店は、
ここらでは社会人の収入減をむしろ追い風に流行っている方だ。
三日前から部活の後この店で、
夜七時から八時の一時間だけホールに出させてもらっている。
平日はこの時間帯が一番客が来る波なので、飲食店について何の知識もない俺でも役に立つ。
(お手伝いであって労働ではない。だから違法ではない、と主張しておく。
それに「お手伝いえらいな」と逆に褒められるくらいだ)
とは言え、てんで素人なので仕事は注文をとり、食事を運ぶくらいだ。
ただその繰り返しだが、回転が早いし、一品料理を注文する人が多いので結構ハードだ。
「市井!皿早く片して」「はい!!」
「兄ちゃん!注文とってー」「はいただいま!」
バスケで鍛えた足できびきびと動く。
常連客同士が会話を弾ませ、がやがやとした明るい活気を直接身体に浴び、
逆に頑張らなくちゃと、やる気をもらえる。
だから“目標の為”に、一時間を必死で頑張る。



