「なぁ、高橋、カサ持ってる?」
終業と同時に席を立った佐藤が、俺のデスクに寄って来た。
「カサ?折りたたみなら持ってるよ。ってもしかして今、降ってる?」
俺は、カサを取り出そうとデスクの引き出しを開けてハッとなった。
「外見てみろよ。ささないと濡れるな」
佐藤は窓を指差した。
―――今日って美咲、仕事だっけ?―――
夕方という理由だけではなく、暗くなっている空から雨が降っているのを見て、俺は真っ先に美咲の事を考えた。
「…高橋ぃ、おまえもしかしてまた?」
佐藤が、冷めた目で俺を見た。
「あ…うん、悪いけど…」
俺は、歯切れの悪い返事をして、帰り支度を始めた。
「あ、高橋さぁ~ん、終わりました?」
まだ終業時間から5分も経っていないというのに、しっかり化粧を直した相沢さんが、駆け寄って来た。
「ごめん、相沢さん。俺やっぱり今日パス」
俺は、ためらう事なく昼にOKしたばかりの飲み会を辞退した。