「何ソレ？サキ、そんな事、言ってたのか？」
空人は驚きを隠せない表情になった。
「し、知らない…」
勢いをなくした美咲は自分の足元に視線を落として顔を真っ赤にさせている。
「ふぅーん…」
空人はいつもの美咲のようにニヤリと笑った。
「ま、良いや。サキ、帰るぞ。送ってくから」
すっかり機嫌を直した空人が美咲のカバンに手を伸ばした。
「え？でも…」
「良いから」
申し訳なさそうに海人をチラリと見た美咲の腕を空人は強引に掴んで部屋から引っ張り出した。
「真由子、帰るみたいだよ」
空人と美咲の後を追って出た俺に真由子がやれやれといった顔でついて来た。
「ソラ！海人くん放置して良いの？友達も居たのに…」
美咲が空人に引っ張られながら後ろを気にした。
「良いから良いから」
背後から見ても空人は上機嫌だった。
「あーあ、私達、何やってたんだろ」
前を歩く空人とは対照的に後ろを歩く真由子が退屈そうな声を出した。
「でも良かったじゃん？ただのガセネタで」
振り返ってみると真由子は声とは裏腹に笑顔を浮かべていた。
きっと本気で美咲の事を心配していたに違いない。
さすがに空人が走りこんで行った時はどうしようかと思ったけれど、まあ、キレイにオチもついて美咲の浮気疑惑は誰１人として怪我する事なく一件落着となった。