いつのまにか寒くなってきていたのだな…。
美春は秋の気配の濃くなってきた銀杏並木を眺めながら考えていた。
両親が事故で亡くなってから半年立った。
訃報を聞き、全てを一人で済ませ、いまは何をするでもない生活だ。
学校を出て就職しかけていた矢先だったのだが事故が美春から進むべき未来を奪ってしまった。
『1年かな…』
美春は心の中で数えながら、お気に入りの和菓子屋に向かった。
『長寿庵』
父も母も、このお店の和菓子を気に入っていた。
二人の為に美春は週末ごとに長寿庵にきていたのだ。
『美春ちゃん、いつも偉いねえ』
二十歳をとうに過ぎたというのに、おばあちゃんには美春が小さい子供のようにみえたらしい。
美春の両親は、親戚がおらず、転居を繰り返していた。
なので美春には、おばあちゃんの記憶がない。
そんなこともあって美春は、このおばあちゃんを本当に祖母のように思っていた。
『この町には長くいられるんでしょ?』
大福を食べながら母に聞いた。
『美春も就職だし、引っ越ししたくないんだけど…』
お父さんの仕事がねぇ…と母は口ごもった。