これは、市川絢(いちかわ・あや)という、この春高校1年生になった1人の女の子の物語。

私は、市川絢。
小さいころから目標だった、偏差値70越えの高校にこの春進学した。
「あや!!早くでなさ~い!!」
「ちょっとまっててよ~~!!」
「あぁぁぁもう!!いいわ。ゆっくりしてなさい。学校には連絡しておくから。」
「だからまってってば。入学式から遅刻とかありえないでしょ!?」
「もう十分、遅刻よ。」

ジャージャージャージャー
 
ガチャッ

「ようやく出たわね。」
「すっきり!!もう遅刻ならゆっくり行く~。」
「ご自由に。」

なんの会話かって??

それは簡単なこと。
朝からトイレにずっと・・・。
今日は入学式なんで、緊張しゃって。
腹痛が・・・
ってことです。
だから家を出るはずだった時間から20分も遅れてます。

「行ってきま~す。」
「いってらっしゃい。今日行けないけどいい?」
「べつにいいよ。いつものことじゃん!気にしてな~い。」
「それにしても、本当マイペースよねぇ。こんな子がA型に見えるなんて。お友達も目が悪いこと。」
「それ聞き飽きた・・。みんながそう見えるって言ってるんだからいいの!!じゃあ」
絢は雲ひとつ無い空の下を自転車で走っていく。
学校まで2時間かけていく。
それは、電車で行くと交通費がかかるからで・・・。

私の母はシングルマザーってやつ。
一生懸命働いてるから、余計なお金はかけたくない。
お母さんには”痴漢にあうから”とか”人ごみが嫌い”とか言ってごまかしている。

入学前に覚えた道のりを、桜が舞うなか進んでいく。

交差点で信号が赤に変わる。
ふと目に入った大きなビル。
外壁に映像が映っている。
”なんだろう”ふとそう思った自分がいた。
信号が変わっても、私はその場を動くことはなかった。
なにかのコマーシャルかな?
光に反射されてあまり見えない。
そう思ったとき、空が少し暗くなった気がした。