このメトロノームを見るのは苦しい。
壊してしまいたい。
それでも私は置いている。

壊してしまう勇気がないだけじゃなく、
先輩を壊すのが怖いから…。


─コンコン

「弥琴…尾崎さんが…見えたわ」

久しぶりに聞いたお母さんの声。
ずっと聞いてなかった…懐かしい声。

「弥琴ちゃん、久しぶりね」

私は返事ができず、
先輩のお母さんは話を続けた。

先輩の部屋をやっと整理して、
私宛の手紙と私専用の楽譜ファイルがあって持ってきてくれたらしい。

「…もっと早く部屋を整理すればよかったわね…」

そう言う先輩のお母さんの声はとても辛そうで、
私なんかよりも…ずっと…ずっと辛かったと思う…
それでも先輩のお母さんは私のところに来てくれた…
なのに、私は閉じ籠ったまま。