「せ・・・・・・先生」


「今すぐ戻そう?
今ならまだ大丈夫だから。ね?」

遥は俯くと、何を言うわけでもなく、だまってポケットの中の口紅を取り出し、元の場所へと戻した。


「帰ろう」


私はそれだけ言って遥の手をきゅっと握った。

外に出て遥がぽそりと呟いた。


「北原先生は、アニキと同じなんだね」


「え?」


遥の顔を覗き込むようにその場にしゃがんだ。

遥は私に何を伝えたいの?


その時、


キキーッ


激しい自転車のブレーキ音が後ろから聞こえた。


「直太朗!」

遥が驚いたように目を見開く。

振り向くとそこには、自転車に乗って息を乱した直太朗の姿があった。