異人の界

思えば様々なことがこの10年で変わった。
今から10年前というと2010年、ちょうど南アフリカでサッカーワールドカップが開催された年だった。

予選リーグで全敗した日本代表がそうとう叩かれてたのをよく覚えてる。
俺はそうなると思ってたから何も感じなかったけどね。


その頃の俺はというと大学を卒業したてで小さな警備会社だが駆け出しの営業マンとして意気揚々な毎日を送っていたよ。

家族は親父とお袋と妹が一人。
裕福とは掛け離れていたがいたって幸せな家庭だったな。

親父は汚れた作業着で出かけて近所の工場で車の部品になるゴム製品を朝から晩まで作ってた。
お袋は軽トラックで委託の配送やってた。

妹はまだ高校生だったし家のローンもあったせいか厳しい家計状況だったのだろう。
でもそれ以上に汗を流して働くことが好きだったように思えた。

新人社会人として世間の厳しさに晒されはじめていた俺は二人の頑張る姿を見て初めて埃に感じたっけ。


それから美人じゃあなかったが愛嬌に溢れた可愛い彼女もいたな。
名前は田中麻衣。
高校の時の同級生だった。