ギュッ



…ようやく追いついて後ろから抱きしめたときには
俺の息は完全に上がっていた



「はぁ…悪かった
そこまで怒るとは思わなかった」



土砂降りの雨の中
傘も差さずに立ち尽くす俺たちは
完全に周りから浮いていたことだろう



『廉君の馬鹿…廉君はあんなこといつも平気でするけど
恥ずかしくないの?…』


いつもって…


俺、そんなにキスしてるかな?



俺が頭の中で思い返していると
春華が自分に回された俺の腕をぎゅっと掴んだ

『私…廉君が触れるの好きだよ
廉君が触れるのは私だけだって、自惚れでもその時だけはそう思えるから…
でも……廉君の馬鹿っ!』



春華はくるっと振り返って
俺の背中に手を回す



…そのときに見える肩は震えて
俺の胸元が暖かいもので濡れていく



「…ごめん、次からは考える」


あー、調子乗りすぎた

俺が原因で春華を泣かせることになるとは思わなかった



「こんな事俺から言うのもなんだけど
…許してくれる?」


春華の後頭部と背中に手を回して抱き寄せる


雨の音がやけに鮮明に地面を叩く




…しばらくの無言の後


『…もう人前でキスしないでね』

「頑張る…」



俺の答えが返ってくると

春華は顔を上げてふわっと笑った