「足りないものって?」



「…俺は昔から物や人に執着がなかった。いつも心の中は空っぽだった。


初めて冷さんに会ったときにズバリ言われたよ。
『お前には人間としての“ある”感情が足りない』て。

だからそれを見つけるために俺はこの世界に入ったんだ」




今でも思う。この世界に入った価値はあったと。


もう少しなんだ。

もう少しで…俺の足りないものがわかる気がする。






「……どうして、私にその話を?」



「…わかんねえけど、月乃になら話してもいいかもって思ったから」


俺はニッと笑った。





「そう」


月乃は素っ気なく言って食器を持ってキッチンに入った。






「なぁ、月乃」



「なに?」