あれから桐沢社長はあたしに手を出すこともない。



あたしはただなにも言わず、横を素通りしていく桐沢社長に胸がチクチクした。


誰かわかるならこの痛みを消して欲しい。



あたしが社長室で新しい企画の書類に目を通していると、扉が開いた。



「まー子それかして」



桐沢社長は入ってきてすぐにあたしにいった。



あたしはなにも言わずに書類を差し出す。



「ありがと。今日はもう帰ってもいいぞ」



書類を見ながらあたしにいう。



まだ夕方なのに……



でもさからうなんてできない。



「お疲れ様でした」



また胸がチクンと痛んだがあたしはお辞儀をして社長室をでた。



扉がパタンと閉まってすぐ、あたしはその場にうずくまった。



涙がでてきておえつがもれる。



「…ヒック、…ぅう」



泣いているあたしの目の前に人がきて、必死に涙を拭く。



「す…すいません、ック」



「大丈夫?片岡さん」



その声には聞き覚えがあった。



あたしの顔から血の気が引いていく。



「……水野課長」



あたしは怖いあまり涙がいっきに引いた。