「失恋…したんです」

松下はタバコを吸うのを止めて、京子を見た。

「ずっと一緒にいて。二人をずっと見てて…。わかっていたし、覚悟もしていたんですけどやっぱりショックで…」

京子は自分の口からスラスラと出る言葉に驚いていた。

誰にも打ち明けていない。
一生、自分の秘密にしようと思っていたことを、何も知らない、ただの教師に言おうとしている…。

松下は京子の話をゆっくりと聞いていた。

幼なじみと親友が付き合うことになったことを今日、聞かされたこと。
それを聞いて、彼女はこの屋上にやって来た。

「君なら新しい恋をすぐに見つけられますよ」

「…無理です」

「そんなことないですよ。冴木さんは魅力的ですし、きっとすぐに…」


「無理なんですっ!!!」


当たり障りのない言葉で彼女を慰めていた松下は、いきなり大声で否定した京子に驚き、ゆっくりと彼女を見た。
京子はその時、泣き出しそうな顔で、しかし唇を噛み締めて懸命に泣かないようにしていた。

「…冴木…さん?」

「無理なんです…。私には…次の恋なんて…考えられない…。だって私が好きなのは…」




…幼なじみの、麻美なんです。