「日向…でしょ…?」
フェンスの外を見ていた男子が、クルリと振り向く。
「美奈だな…?」
日向は、いつもの笑顔だった。
「うん。」
私は、パッと目を逸らした。
日向は、こっちを見ている。
「美奈。」
「何…?」
日向は、私の名前を呼んだ。
「俺、なんかした?」
「別に…。」
言えるわけが無い。

日向の事が好き。ひかるって誰?梶原とは?

聞きたい事は、山ほどある。
でも、聞けない。聞いたら…。

友達で居られなくなる。

近くに居られないくらいなら…、友達で居る方がマシだ。
「別に…って、なんかしたなら言ってくれ。わかんないから。」
「何も無いもん。」
「じゃあ、こっち見て言って?」
見られるわけが無い。目を合わせられない。
この気持ちがばれてしまいそうで…、怖くて…。
「嫌だ…。」
「見て。」
「嫌…。」
日向は、ふぅとため息をついた後、こちらに近づいて来た。
日向は、しゃがんで、私の顔を見た。
「こっち、見ろって、言ったよな?」
パッと手で顔を隠す。
「やだ…!!」
次の瞬間だった。
ガシャーン!
手を抑えられる。
男子の力は、振りほどけない。

顔が近い。
日向は、怒ってる。
きっと…、私は顔を真っ赤にしてる。
「見ろって…。」
「嫌よ。」
「何?それは、理由がある訳?」
「あるわよ…!」
キッと一回睨み付けた。
(日向のせいだっての!)
心の中の叫びを、視線に託す。
「ふぅーん。そうなんだ。」
そう言うと、日向は手をパッと離した。
「そうよ!だったらなに?」



知らない、知らない、知らなーいっ!
日向なんて知るか!

私は、今きっと自分に対して怒ってる。
何も出来ない、自分に対して。
それを日向に当ててる。

もう、どうしたらいいのかさえ…。

分からないよ。
誰か、助けてよ。
「う…っ。く…っ。」
ポタッと一筋の涙が頬を伝った。
涙が溢れ出る。
手で、涙をゴシゴシ拭く。
(やだ…!何泣いてるの!?)
涙を止めようとしても、全然止まる気配は無い。
(こんな顔、日向に見られたくない!)
と思ったが、時はもうすでに遅し。
日向は、気づいていた。
「お前…ちょっ…、美奈…。泣いてる…のか??」