「あっ、そうそうお話があったんですよ」
「話?」
「氷原に狩りに出る許可が下りました」

 滅多に居留地から外に出ない『氷炎の民』だが、周囲の氷原に狩りに行くことはある。
厳しい寒さに晒される氷原であるが、獲物はいないわけではない。むしろ豊富だ。

 獰猛な生き物も多く危険でもある。そこに狩りに出ることを許されると言うことは、男の子が大人として認められる第一歩でもある。

「えっ、ほんと?」

 凍青の瞳を輝かして素直に喜ぶサレンスは年相応のごく普通の少年に見えた。

 本が好きで女の子たちと遊ぶことが多く、大人しい少年と思われがちではあるが、実は身体を動かすことも好きで、好奇心旺盛なサレンスが喜ぶのも当然だった。

「はい、ディアスも褒めていましたよ」

 ディアスは鍛錬場で子どもたちに 剣術、体術、弓術等武術一般を教えている指導者である。

 彼の話ではサレンスは剣術体術に関しては同世代の他の子たちに遅れを取るが、弓術に関しては群を抜いていると言うことだった。

「でも、レジアス、メイリアについていないと」

 笑顔のレジアスにサレンスは眉を寄せた。

「生まれるのはまだずっと先ですよ」

 少年の思いやりにレジアスは破願する。
 この少年は優しすぎるのだろう。

 特に運動神経が鈍いわけでもないのに、剣術、体術で後れを取るのは、直接に相対するために相手に気後れしがちなせいかもしれなかった。

 男の子たちの中で揉まれて育たなかったせいか、どうもサレンスは闘争心に薄い節がある。

 その点、闘争心より集中力と技術力を必要とする弓術のほうが、この心優しい少年の性に合っているのだろう。

 しかし、 だからこそレジアスはサレンスを厳しい試練の場でもある氷原への狩りに早めに連れて行きたかったのだ。

「今は気候もよいし、さっそく用意を始めましょう」

「うん」

 レジアスの言葉にようやく少年は愁眉を解いた。