「あ、いや。邪魔しちゃ悪いかなと」

 言葉通り申し訳なさそうな声が戸口から返ってくる。

「レジアス、遠慮することないだろう。ここはレジアスの家だし」

 少年の言葉に戸口から姿を表したレジアスは、彼をかるく睨んだ。
 24歳となった彼はがっちりとした骨太な、けれど均整のとれたほれぼれするような体格を手に入れていたが、持ち前の穏やかな風貌と物腰は変わってはおらず、威圧感はない。

「そう思うなら、入り浸るのはやめて下さい」

 少年はかくんと首をかしげた。

「レジアス、焼きもち?」
「どうしてそういう結論に」

 大きな身体を縮めるようにして、うなだれかけるレジアスはどこか可愛らしくて、メイリアはくすりと笑った。

「あら、レジアスとサリィちゃんに焼きもちを妬いていたのはいつも私だったのにね」
「何を言ってるんだ。君とサレンス様に冷や冷やしていたのは、私の……あっ!」

 抗議しかけて、レジアスはこの場にいるまだ幼い少年の存在を思い返す。
 はたして、凍てつく空の色の瞳が青年を不満げに見上げていた。

「ふうん、レジアスってそんな風に見てたんだ」

 言うなり身軽に立ち上がり、戸口に向かって歩き出す。
 その少年に追いすがるようにレジアスが声を掛ける。

「あっ、サレンス様? どこ行くんですか」

「どこって帰るんだよ。新婚家庭にいつまでもお邪魔するのはさすがに気が利かないだろ?」

 振り向いた少年はいくぶん皮肉っぽくいうが、声には隠しきれない笑いが入り混じっている。

「あら、もう少しいればいいのに」

 気楽げに声を掛けるメイリアに、少年は快活に答える。

「ううん。これ以上いたら、レジアスに殺されそうだし」
「サ、サレンス様」

 殺されるとは穏やかではない物言いに焦りながら抗議するレジアスであるが、サレンスは軽く蒼い視線を向けただけだった。

「じゃあね」

 小さく手を振るサレンスに、メイリアが手を振り返す。

「またいらっしゃいね」
「うん」

 メイリアに素直に頷くサレンス。

「ちょっ、サレンス様、お話が」

 ひとり少年を止めようとするレジアスだが、サレンスはきっぱりと首を振った。

「ダメだよ」