涙が止まらなかった。
 自分でも理不尽だと思う。
 やはり、レジアスが一番に心配するのはサリィちゃんで自分ではなかった。

 自分はついでのように声を掛けられただけだ。
 わかっていたはずだったが、それがあまりにあからさまでメイリアには堪えられなかった。

 青いドレスを翻し、しばらく駆けたところで少女は足を止めた。
 息が苦しい。
 足元がふわふわする。
 ふと目の前が暗くなる。
 身体が前へと倒れようとする。

「メイリアっ!」

 鋭い叫びとともに、二の腕を取られた。
 身体が後に引かれ、とんと何か暖かなものにあたった。

「レジアス?」

 瞬きをし、周りを見回す。
 レジアスが追いかけてきたのなら、サレンスも近くに居るはずだ。
 あの子どもにこんな弱った姿を見せたくはない。
 心配させてしまう。

「サリィちゃんは?」

 問いに返ってきた声は何故か怒気をはらんでいた。

「セレウス様に預けてきた」

 セレウスはサレンスの上の兄だった。騒ぎを気にして近くまでやってきた彼を見つけて、無理やり小さな少年を預け飛んできたのだった。

「そんなことより、君だ」

 くるりと身体を回され、レジアスの蒼い瞳がメイリアを覗き込む。あわてて顔を伏せる。泣き顔を見られたくなかった。

「顔色が悪い。急に走ったりするからだ」
「きゃっ!」
 
 思わず小さな悲鳴を上げる。
 急に身体が軽くなる。
 レジアスに横抱きに抱き上げられたようだった。

「まったく、君はサレンス様以上に手を焼かせる」
「下ろして。レジアスには関係ないじゃないっ!」

 思わず売り言葉に買い言葉で叫んでしまう。
 いつものように子ども扱いされたことが癪に障った。

 しかし、何より、このうるさいほど脈打つ動悸を知られたくなかった。彼にとっては自分は小さなサレンス様の友達にしか過ぎない。
 メイリアの叫びに、レジアスが一瞬蒼い眼を見開いたが、いくぶん項垂れがちに言う。

「君は私のことが嫌いなんだろうけど、今は我慢してくれ」