飛び交う銃弾、爆撃、それは町を焼き、人々の命を奪う。

 人は皆違う思想を持ち、違う今を生きている。

 それでも人は自分の主張を通そうとする。

 意見の食い違いは反発を呼び、それはやがて戦争という名の大きな惨劇へと変わる。

 後にクルーエル戦争と呼ばれることとなるこの戦火の嵐もその一つ。

 東のアルトリア。西のリグルス。

 東西二つに別れた大国は互いにいがみ合い、なんの力も持たない国民達は、ただただ戦火の中を逃げ惑う。

「カイル! 早くしなさいっ!」

 リグルスからの激しい爆撃を受けるアルトリアの城下町。その街道を一つの家族が疾走する。

 カイルと呼ばれた少年は父と母に手を引かれ、自身も幼い女の子の手を引いて走る。

 そんな家族の頭上より、リグルス軍から放たれた長距離爆撃が降り注ぐ。

 それにいち早く気づいたのはカイルの父。彼は走る足を止め、手を引いていた二人の子供を、力の限り突き飛ばした。

 突き飛ばされた少年は、なにが起こったのか、理解するまでに幾らかの時間を要する。

 突き飛ばされた衝撃で街道を転げ回り、痛みに耐えて起き上がった少年が最初に目にしたものは、先ほどまで自分達が走っていた街道の無惨な姿。

 少年は幼いながらに理解する。自分は父に助けてもらったのだと、そして、自らをかばった父と母は……

 クルーエル戦争……二つの大国による戦乱は、少年の心に憎しみの炎を宿らせた。