福留さんが指示通りに、メインカメラの前から人を払ってくれた。
これでしっかりと容態を見ることができる。


香織さんはダラダラと口の両脇から涎を垂らしていた。
既に顎の先から雫が滴り落ちている。


まだ、身体はのけ反ったまま。
取り合えず吸えてはいるようだ。


客席から帰ってきたのだろうスタッフとおぼしき人が、フレームを横切る。


「福留さん! 薬は!?」


『ダメだ! ねえってよ!』


今の人は空振りだったらしい。


今度は香織さんの悶え方に変化が出た。
身体を丸め始めたのだ。この動きは、もう肺が満杯になって吸うこともできなくなってしまったことを示している。




息を吸っている限り、身体は反っている筈なのだから。




《まずいなぁ……、どうにかしないと……》


こうなってくると、喉よりも肺が痛むのだろうか。
首には目もくれずに胸ばかりを押さえるようになってきた。
小刻みにプルプルと前にのめった身体を震わせながら、元々大きかったのをさらに大きくおっ拡げた両目で、必死に助けてくれと訴えている。


ここで哀願の目をカメラに向けることができるとは、香織さんはよほど胆の据わっている人のようだ。