輪廻怨縛

開いた扉を閉めもせず、玄関のすぐ前のドアを全力で開いて、土足でその先に上がり込む。


あたしの目の前には、目的の洋式トイレが鎮座していた。


《間に合ったー……》


本当に今日の服装をワンピースにしてよかったと心から思う。
それ以外の服装だったなら、おそらく年齢が二桁に到達して以来二度目の失禁という憂き目を見ていたことだろう。
もししてしまったとしても、テレビカメラの前ではない分前回よりはマシだったのだろうが、回避できた今となってはもう、どうでもいいことだ。


用を足し終えたなら、今度は引き返してエレベーターホールの片付けだ。


鏡台からマニキュア落しを、物置から箒とちり取りを出して、エレベーターへと踵を帰す。


ホールに着くと、運の悪いことに、既に大竹管理人が片付けを始めていた。


「大村さんですか? これやったの」

「ごめんなさい。あたし喘息持ちで……、ここで息止まっちゃったんです」

「それは大変でしたね」

言葉では解ってくれたようなことを言ってくれたが、その顔付きは、明らかに「で?」と言っている。

「でですね、薬がバックの奥のほーにあったもんだから……、つい」