漸く長かったドラマのロケが終わった。


「お疲れ様でしたー」

「お疲れ、香織ちゃん」

挨拶したあたしに、語尾にハートマークでも付きそうなほどの甘~い声で、帰りのロケバスで隣り合わせた監督が返してくる。


「色々あったのに、最後まで使ってくれてありがとうございました」


本当に色々あった。
本来ならキャストを降ろされてもおかしくないだけに、無事最終回まで使ってもらえたことに、達成感も一塩だ。


「まあ、香織ちゃんは勝負所で息が止まるってのは、始めから解ってたからね。それを知ってて使ってるんだから、降ろすことなんか考えたことも無かったよ」


そう、いつも止まってしまうのだ。
慢性の喘息。


発症してしまうのは、だいたいドラマのロケや生放送のときだから、ほとんどの人は心因性のものだと思っていることだろう。


だがあたしには、そうではないのだということははっきりと解っていた。



だって聞こえるのだから。
息が止まる前に必ずといっていいほど、とてもこの世のものとは思えない、地獄の底から沸き上がってくるかのような声が。