僕は動けなかった。

その彼女から目をそらすことすらできなかった。


ストライクだった。


僕の目に映る
僕が今、知ることのできる彼女については

僕のストライクだった。

こんなことは初めてだ。

その女性はスーツに身を包み、仕事のできる大人の女性というような風貌で
年は20代半ばから後半で、だいぶお酒も入っている
というようなカンジだった。

ミディアムロングの上品な茶色のやわらかそうな髪で
少しつり目の大きなネコ目
鼻筋はとおっていて
口は小さく上品な淡いピンクのルージュが塗られてあった。
顔が小さいからか、身長は160cm未満であるにも関わらずバランスがよく、スレンダー美人だ。

しかし、彼女の容姿は僕にとってだけではなく
他の男どもにとってもストライクであったようだ。

男どもは
見とれているせいか誰も何も言えなかった。
固まっている。

「田中太郎ってどいつ？」

その美しい女性はドスの効いた声で僕の名前を呼んだ。


僕は彼女の言葉の意味が理解できなかった。

まさか、僕の名前を呼ぶとは思いもよらなかったのだ。

「こ、こいつです。」

山瀬が僕を指差し、そういった。
すると、彼女は僕の方を向いて、
数秒、僕を見つめた後に、満足したかのように頷き、

ニコっとほほ笑んだ。

僕は一瞬、心臓が止まったのではないかというぐらい

ドキッとした。

「君が田中太郎くん？」

僕は二度ほど頷いた。

「一緒に来て。」

そう言って、彼女は僕の方まで近づき、強引に僕の手を引いた。

僕は戸惑いはしたが


抗おうとはしなかった。


不安はあったが

期待の方が勝ったのだ。


僕はこのヒトとこれからどうなるのだろうか


そのとき僕は

さえない僕が
何かのラインを超えることができる気がしたのかもしれない。

単調な毎日を変えたいと心のどこかで思っていたのかもしれない。