ピンポーン

 古そうな洋館にしては意外にもはっきりとしているチャイムの音。
 チャイムを鳴らして一分もたたない内に、大きな玄関扉が開いた。
 大きく開いている扉から顔を覗かせれば、広いホールが嫌でも目に入る。
 毎晩仮面舞踏会でもひらいていそうな、綺麗だけど少し不気味なホール。
 入ってもいいのかと躊躇っていると、コツコツ、と小さな足音が聞こえてきた。


「瀬戸 響様ですね? お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」
「……」


 小さな足音の主であろう、俺に声をかけてきたのは可愛らしい声。
 真っ黒なドレスを着ている女の子……。
 ただ、どんな表情をしているのかは分からない。
 別にのっぺらぼうの様に顔が無い訳ではないのだが、大きな仮面を付けているのだ。
 ホールから二階へと続く階段の上に立って俺を呼んでいる。
 ……正直気味が悪くて入りたくない。
 でもドールセレクションが何なのか気になるし、このまま踵を返せば追っ掛けられそうで何だか怖い。
 もうすぐ二十歳になる男が小さい女の子に怯えるのもどうかしてるけど、
 仮面を付けた少女は妙な雰囲気をかもしだしていて何か嫌なのだ。
 今の俺と同じ状況にたてばよく分かる……筈。


「ドール達が貴方様をお待ちしております。 さぁどうぞ……」


 少女の言葉に促され、俺は洋館の中へと恐る恐る足を踏み入れた。









「響様はどんなドールをご希望で?」
「え? いや、まだよく分からなくて……」
「焦らなくてもきっとご希望のドールが見つかりますわ。 ……この部屋です」


 成り行きで仮面少女に着いてきてしまった。
 二階に上がって長い廊下を進めば沢山の扉がある。
 その扉達を無視してさらに奥に進めば、大きくて頑丈そうな扉の前で仮面少女は止まった。
 どうやら、ここにドールがいるらしい。
 仮面少女がどこから取り出したのか、沢山の鍵の中から一つの鍵を、頑丈そうな扉の鍵穴にさして回した。
 ガチャ、と扉が開いた音を確認すると仮面少女は扉を開けた。
 ……見た目に反して意外と軽い扉らしい。