向こう岸のきみ【掌編】



『なあ、あんた。そういや名前はなんてんだい?』



彼の突然の問いを不思議に思いながらも、彼女は微笑んで答えた。





『――さくら、と…ソメイヨシノ、と人には呼ばれます。』




彼は笑った。



『さくら、か。いい響きだな』





穏やかに満足そうに笑う彼に、彼女は尋ね返した。




『ではあなたの名前はなんというの?』


『オレかい?』





彼はいつも俯いている顔を少し上げて、照れたように笑った。





『オレはただの、ヤナギさ。』