向こう岸のきみ【掌編】



――ある日。


眠っていた彼は、嫌なざわめきを聴いて目を覚ました。




そのざわめきは、彼の背後で、彼の分からない言葉で交わされていた。


けれど、彼はその意味を知っていた。






「……今のはなぁに?」


向こう岸で彼女が不安そうに声を上げた。
ざわめきはそちらまで届いたらしい。


彼はぶっきらぼうな笑みを投げてやった。



「なんでもねぇよ。あんたが心配することじゃないさ。」