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「だっはっははは! なにそれやっば、さすが弥生さんっ!」

「獅子がパパぁ? ねえ大丈夫? 俺、今からその子の未来が心配」



盛大な笑い声を上げる歩と、素っ頓狂な心配をする番犬を交互に睨む。

リョウの経営するバー、Agehaで最早定例になりつつあるこの3人で酒を交わす。



「殺すぞてめぇら。人ごとだと思いやがって」

「あーあ、歩ちゃん聞いた? お医者さんが殺すだって。まったく世も末だよねえ」

「はー、腹いてぇ。そうそう、もうお前も晴れて今年から正式に医者の仲間入りじゃん。何も困ることないだろ。歳も歳だし、結婚考えてもおかしくはない」



歩がジンバックを飲み干して笑う。

清々しいほどのその笑顔を殴りたいと心底思う。



「そっかぁ。あれから……いち、にー、さん……はちねんかぁ。俺も26歳になるのか。うっわ、なんか歳とったなぁ、きも」

「おいおい、それ言ったら俺と秋は28だぞ?しじいか、俺らは」

「あはっ、でも歩ちゃんって時々初老みたくなる時あるよね。悟り開いてる感じ?」

「それ褒めてんだよな? な?」



2人の相変わらずの会話をいつも通り横で聞き流しながら、ビールをかっ食らう。




――――そう、あれから8年。



俺は高校を卒業し、有名大学の医学部を合格し、6年間医学を学び、国会学試験に受けた。

難問といわれたそれを超え、卒語臨床研修、つまりは研修医として病院に配属されるまでになった。

そして今年、歩の言った通り晴れて正式な医師として獅堂総合病院の小児科に配属。



とてつもなく長い時間の様にも、遥かに短い時間の様にも感じられた。