散らないサクラ



胡乱な瞳を向ければ、グルグルと肩を回し、指の骨をバキバキ、と鳴らす姿が目に入る。

……こいつ、本気か?

視線を地面に落とし、溜息を吐く。



「……理由なしに人を殴るのはもうやめたんだ。悪いがことわ、――――グガァッ!」



ぐわんぐわんぐわん、脳天が揺れる。

一瞬何が起こったのか理解できずに、瞳だけが忙しなく左右上下に揺れた。

右頬に衝撃。

状況を確認しようと表を上げれば、そこには爽快な顔をして左の拳を摩る男の姿。

にかっと歯を出して笑う顔に、二の次が継げない。



「お、ははっ! 久しぶりに人を殴ったなぁ! ……いや、普通なら殴っちゃいけねえんだけど……、ちょっとすっきりし―――――グボァッ!」



殴られたのだと、気づいた瞬間、渾身の力を込めて男の左頬を殴る。

拳に相手の歯の硬さが感じられた。



ああ、酷く胸も腹も、ムカムカする。



「アイツを泣かせてんじゃねえよ。……守れねえ約束なら初めからすンな」



まるで自分の物ではないみたいに言葉がスラリと口から飛び出す。



―――――アイツ?



それは誰を指すんだ。

断定した言い方なのに、その断定した相手が全く脳内に出てこない。

言葉を吐いたはがいいが、それが誰だと聞かれたら“分からねえ”って答える。

……俺は一体何を言ってるんだ。



「ごもっともだ。……悪かった」



止まない疑問に、俺は口を閉ざすしかない。

男は殴られた口元を摩り、痛みに顔を歪めた。