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獅堂総合病院、大きく掲げられた看板を見上げながら男は血で固まった赤茶の前髪をかきあげた。

広がる曇天は今まさに自分自身の心情を表している様で、皮肉に感じる。

男は小さくそして、荒々しく舌打ちを繰り返し、屋外に設置されている喫煙所の煙草の吸殻入れを乱暴に蹴り上げた。

派手な音を立て、それは飛んでいき、中に入っていた吸殻と水を大量に吐き出した。



「……ちっ、……くそ」



痛む足、痛む拳、……それ以上に心臓が酷く圧迫され痛む。



「蘭丸くん!」



切迫した声に顔を向ければ、其処には血相を抱えて走ってくる女性の姿。

その姿を目にいれた瞬間、男の体から力が抜け、今にも泣き出しそうに眉が下がる。



「……せんせえ」

「どうしたの、また喧嘩? もしかして怪我したの!? ……どうした、の、何かあったの?」



いつもとは違う、見たことのない男の姿に女性は表情を変える。

通常ならば、“また喧嘩して! 自分の体を大事にしなさいって言ったでしょう”と叱り飛ばす所だ。

だが、目の前の男は頼りなく眉を寄せ、まるで泣くのを我慢している子供の様な顔をする。



「蘭丸くん? ……獅堂総合病院に来てってメールだけだったから、状況が良く分からないんだけど。とりあえず、怪我はないのね?」



女性の労わる声に、男はコクン、と頷いた。

そしてゆっくり女性の元に歩み寄ると、自分よりも低いその肩口に顔を寄せる。

元々スキンシップの多い男ではあったが、ここまで弱々しい抱擁を見たことがないだけに、女性は困惑する。

それでも弱っている時に自分を読んでくれた事に感謝しながら、腕を男の背に回す。

そしてあやす様にトントン、と背中を叩く。



「……庇ったんだよ、あのばか」

「ん?」



ぽつり、と零した言葉は頼りなく震えている。