「俺、こんな暴走族とかチームとか、ただの馬鹿で屑の集まりだって思ってたんです。腐った連中が傷の舐め合いをするだけの意味のない存在。または“暴走族に入っちゃっている俺は格好いい”とか思っちゃうただの自己満。空っぽのモンだって、思ってたんです」



手のひらにある缶コーヒーを開ける。

豆の香りに自分でも知らない間に強ばっていた体が緩んだ。



「だけど、……秋さん覚えてるかな。俺が中学3年の時だから、……秋さんは高2の時ですね。駅前でカツアゲにあって、最初言葉で負かしてやったんですけど、手出されて見事にボッコボコ。そこに現れたのが秋さんだったんですよ」



そんな事あった気もするし、しない気もする。

人間の記憶力なんてのは曖昧で不確定なもンだろ。



「まぁ、奴らも去ったあとだったんで、秋さんが特別何かをしてくれた訳じゃないんですけど」





『反撃する力を持ちながら、甘んじて攻撃を受けるのは穏便なやり方に慣れちまってるからなのか、諦めなのか、お前はどっちなんだ』

『……げほっ、……は?』

『あそこまで人を動揺させる力を持ちながら、手ェ出されたら戦わねえのは自分の限界を自分で決めてんのか、自分が弱いからって諦めてンのかどっちなんだよ?』

『……な、に、言って……』





「自分に力があるなんて事そもそも思ってもみなかったし、俺をカツアゲした奴らと同じような人間なのに、芯のある目を向けられた事にまず驚きましたよ」



その時の俺が気まぐれを起こした事は確かだ。

昔は道端で人が倒れてようが、誰がカツアゲされてボコられていようが、見向きもしなかった。

それこそ気まぐれで喧嘩に参戦するのはあっただろうが。

だが、記憶の扉を確かめると薄らと記憶に残っている気もする。




言葉巧みに相手を煽っておきながら、いざ向こうが手を出して来たと思ったら戦いもせず負けを最初から提示していた奴。

力を持ちながらも、それをどう活用していいのか分かってない愚かな奴だと、思った。




ああ、そうか、お前があの時の……。